厳しいコーチの方が子どもは強く育つ? 少年サッカーの指導をめぐる賛否と研究

「厳しく言われたから強くなれた」という声がある一方で、怒鳴る指導はもう古いという声も強まっています。厳しさは本当に必要なのか。指導をめぐる最近の流れと、賛否の両方を見ていきます。
「怒らない指導」への大きな流れ
スポーツの現場から暴力や暴言をなくそうという動きは、ここ10年ほどで大きく進みました。日本サッカー協会(JFA)は暴力・暴言・ハラスメントに一切の妥協をしない「ゼロ・トレランス」の姿勢を打ち出し、「サッカーファミリー安全保護宣言」を掲げています。指導者からの暴力や暴言、不合理な指導について相談できる窓口も設けられています。

サッカー以外でも、元バレーボール日本代表の益子直美さんが始めた、監督が怒ってはいけない小学生のバレーボール大会「益子直美カップ」が話題になりました(Sportiva)。学生時代に怒られ続けてバレーが嫌いだったという益子さん自身の経験から生まれた大会で、同じような考え方の大会がほかの地域や競技にも広がっています。
なぜ怒鳴る指導はなくならないのか
JFAは、指導者が暴力や暴言に頼ってしまう理由を次のように整理しています。
- 手段を選ばず勝ちたい、結果を出さなければという重圧
- ほかの教え方や、感情のコントロールの方法を知らない
- 自分も厳しく指導されて育ち、それが正しいと思っている
- 外から見えにくい、閉じた環境
- 熱が入りすぎて、つい感情的になる
- まわりが見て見ぬふりをする
悪意がなくても起こりうること、そして指導者だけでなく、まわりの大人みんなの問題だという点がポイントです。
「厳しさは必要」という意見
一方で、厳しさそのものを否定しない声も根強くあります。掲示板では、次のような意見が見られます(サッカーBBSより要約)。
- 上手くなるには、自分から努力する姿勢が欠かせない。甘やかすだけでは伸びない
- 本当に努力が足りないのか、成長の途中なのかを見極めて、言うべきことは言うのが指導者の役目
- 理不尽なことにも負けない強さが育つ
確かに、高い目標を示して、できるまで求め続ける「厳しさ」は、子どもを伸ばすうえで大切です。問題は、その厳しさが何を伴っているかです。
怒鳴る・人格を否定する指導の弊害
同じ掲示板では、感情的な指導への強い反対意見も多く見られます。
- 感情的な言動は小学生には威圧的で、信頼関係を壊す
- 人格を否定するような言葉は、育成とは正反対
- 感情的な指導者との関係で、良かったことは一度もなかった
海外の研究でも、怒鳴られ続けたり、強いストレスにさらされ続けたりする子どもは、不安やうつなど心の不調のリスクが高まることが報告されています。直接怒られていない子でも、まわりで怒鳴り声が飛び交う環境(「バックグラウンド・アンガー」)にいるだけでストレスを感じることがわかっています。また、指導者との関係の悪さは、子どもがスポーツをやめる大きな理由の一つです(Newcastle Herald、DFWChild)。
「強くなった子」の陰には、サッカーを嫌いになってやめていった子もいるかもしれません。厳しい指導の成功例だけを見ていると、それが見えにくくなります。
「厳しい」と「怖い」は違う
賛否を整理すると、多くの人が否定しているのは「厳しさ」ではなく、怒鳴る・脅す・人格を否定することだとわかります。

- 厳しい指導:目標が高い。できていないことをはっきり伝える。ただし理由と、次にどうすればよいかがセット
- 怖い指導:大声や罰で従わせる。失敗そのものを責める。子どもは「怒られないこと」を目的に動くようになる
JFAも、体罰や恫喝でよいプレーを強いるのは指導力不足だとし(JFA STATEMENT)、子ども自身が「うまくなりたい」と思う気持ち(内発的な動機)を育てることを指導の第一に置いています。
保護者にできること
- 子どもが練習や試合を嫌がるようになったら、理由をじっくり聞く
- 人格を否定するような言葉や暴力があれば、ひとりで抱えず、クラブや協会の相談窓口を使う
- 家では、結果より「どこがよかった?」「次はどうしたい?」と、本人が考えるきっかけを作る
試合の動画を見返しながら話すと、怒られた場面ではなく、うまくいった場面や次の目標に目を向けやすくなります。
まとめ
「厳しい指導で強くなる」かどうかは、厳しさの中身しだいです。高い目標を示し、理由と次の一歩を伝える厳しさは子どもを伸ばします。一方、怒鳴る・脅す・人格を否定する指導は、心の不調やスポーツ離れにつながるおそれがあり、いまのサッカー界でははっきり否定されています。子どもが「サッカーが好き」と言い続けられるかどうかが、指導を見るときのいちばんの物差しかもしれません。